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CBAM(炭素国境調整メカニズム)概要

炭素税

CBAM規則の背景

EUは気候変動対策として、温室効果ガス(GHG)の排出量を2030年までに1990年比で55%以上削減し、2050年までに気候中立を達成することを目指す「欧州グリーン・ディール」政策を推進している。2021年7月、欧州委員会はこの目標達成に向けた「Fit for 55」政策パッケージを発表し、その一環として炭素国境調整メカニズム(CBAM)規則案を提示した。CBAM規則は2023年4月に欧州議会とEU理事会で採択され、2023年10月から2025年末までの移行期間を経て、2026年1月から本格運用が開始される。


CBAMは、EU内で生産される製品に課される炭素価格に対応した価格を、域外から輸入される製品にも課す制度である。背景には、EUがGHG削減のために炭素排出コストを高める中、同レベルの対策を取っていない域外国からの輸入品との競争でEU内の生産が不利になる懸念がある。特に炭素集約的な産業では、生産が基準の緩やかな国に移転するリスクや、EU製品の競争力低下が問題である。CBAMはこれらの「カーボンリーケージ」リスクを低減し、EU企業の競争力を維持することを目的としている。また、CBAMは世界全体の排出削減に貢献し、域外の生産者にも排出削減技術の利用を促す狙いがある。


対象セクターと対象製品

以下の分野の製品を対象としている:

セメント(CO2)、肥料(CO2とN2O、一部製品はCO2のみ)、鉄鋼(CO2)、アルミニウム(CO2とPFC)、水素(CO2)、および電力(CO2)。

これらの製品は、EUの関税品目分類(CNコード)で指定されている。水素は将来の利用推進を見越して適用対象となっているが、有機化学品や石油精製品は技術的制約から現時点では対象外である。CBAM規則は2025年末までの移行期間後、欧州委員会が対象製品の見直しを行うことを定めており、対象製品の範囲が拡大される可能性がある。


基本的な算出方法

対象製品の体化排出量の算出には、以下の計算式が適用され、製品1トン当たりの体化排出量(1トン当たりCO2換算トン)が算出される。


<製品の体化排出量の計算式>

製品の体化排出量 = 直接排出量+(間接排出量)+(投入材料の体化排出量) / 製品の活動レベル (生産量)


<投入材料の体化排出量の計算式>

投入材料の体化排出量 = (各投入材料の質量 × 各投入材料の体化排出量) の総和


体化排出量の対象:実施法令が規定する投入材料(前駆体)がある製品

間接体化排出量の対象:セメントと肥料(生産工程で消費する電力の生産から排出される排出量の算出)


同制度は、公平性を保ちつつ、実際のデータが入手できない場合の代替手段として、デフォルト値を使用する算出が可能である。

・デフォルト値の使用条件: 実際の排出量を算出できない場合のみ使用可能

・デフォルト値の種類:

a) 輸出国ごとの平均排出単位にマークアップを上乗せした値

b) EU ETSの最も実績の悪い施設の平均排出単位に基づく値

c) 域外国の特定地域のデータに基づく値(入手可能な場合)


日本企業への影響

CBAMの近隣諸国以外からの輸出の対象となっているセメント、肥料、鉄鋼、アルミニウムの4セクターの製品は、日本からEUへの輸出量が少ないため、直接的な影響は限定的とされるものの、注視が必要である。世界銀行が算出している、CBAMによる各国の対象製品の前輸出量に対するEU向け輸出量の割合とその国の製品の炭素排出強度からの影響指数によると、カメルーン(93%)、ジンバブエ(87%)、モザンビーク(74%)、英国(69%)、アルバニア(59%)と発展途上国と近隣諸国が多く、他の国では、米国10%、中国9%、韓国10%、インド19%、南アフリカ17%となっている中で、日本はわずか2%であり、影響は極めて低い。ただし、国外の拠点で生産してEUへ輸出している場合は、EU向けだった製品が日本や日本の輸出先に向かうことで、競争を強いられるなどの影響が出ることが考えられる。また、製品の適用範囲の拡大により、有機化学品やポリマーが対象となった場合は、EU向け輸出量が多いことから大きな影響を受ける可能性がある。

その他、今後以下の影響が出る可能性が挙げられる。

・EUに対象製品を輸出する企業は、体化排出量に関する情報提供の為、排出量のデータをモニタリングして記録するシステムを導入する必要があり、事務的な負担やコストの増大を強いられる。

・EUの輸入事業者が体化排出量の低い製品を選ぶ傾向が予想されることから、製品の体化排出量が新たな競争力の要素となる。


出典:日本貿易振興機構、EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説を基に弊社作成

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